そして、2時間が過ぎました。

 200発、休みなく裏拳を繰り出した西川口も、それを受け続けたかわっちも満身創痍です。
 今にも倒れそうです。
 それでも二人は殴る側と殴られる側を続けています。

「ハアハア…な、なんでや…ねんな…」ガッ
「ゲフッ。も、もういっちょう!」

「ハアハア…なんでや…ね…ん…」そう言って、ついに西川口が膝をつきました。
「ハアハア…」かわっちも西川口につられるように膝をつきました。
「ふるっふー」はとっちが鳴きました。
「ハアハア…大丈夫だ。はとっち」
「ふるっふー」
「お願いだ。やらせてくれ。俺だって、俺だって、本当はちゃんと出来るんだ」西川口は涙を流しています。
 よろよろとかわっちが立ち上がりました。
「泣いている暇があるなら…早く…終わらせるっち…それとも、西川口さんは口ではカッコいいこと言っても根性なしのボンボン気質だから本当はもうこの辺で適当に終わらせたいと思ってるっちね」
「何?」
「悔しいっちか? 悔しいならここにいるツッコミ待ちのモンスターにちゃんとツッコんでみたらどうっちか」
 かわっちは舌を鼻につけ、目は上を向き、片足立ちで、顔の横で両手の親指と小指だけ立てて精一杯ひょうきんなポーズをしています。

14西川口つっこみ

 
「ちくしょー。ちくしょー」西川口は震える自分の足を殴りつけ気力で立ち上がりました。
「ふるっふー」はとっちが鳴きました。
「大丈夫だ。はとっち。ちゃんと見ていてくれ」
「ふるっふー」
「な…なんでやねんなッ」
「もういっちょう」
「なんでやねんなッ」
「もういっちょう」
「ふるっふー」
 かわっちも西川口もはとっちも涙を流していました。

「な…ん…でや…ねん…な…」
「ハアハア…もう…い…っちょう…」
「298回」数をカウントしているのははとっちです。(しゃべれるんかいッ??? 西川口、ツッコめよ!)
「なん…で…や…ねん…な」
「ハアハア…ハアハア…もう…い…っちょう…」
「299回。ラスト一回!」はとっちが言いました。
「ハアハア…な…な…な…なん…」西川口は膝をつきました。
「ふるっふー」はとっちが鳴きました。
「だい…だいじょう…ぶだ…はとっち」西川口が立ち上がりました。

 西川口はかわっちを見ました。

 かわっちは立ったまますでに気を失っていました。

 禿げ上がり、顔を腫らし、血を流し、白目をむいた状態で。

 人間たちに恐れられ、嫌われ、傷つけられてきたのに、誰も恨まず、それどころか人を幸せにするためにこんなにボロボロになっています。 

 西川口は優しくかわっちを見て言いました。

「なんでやねんな…」

 そして、かわっちを優しく叩き、そのまま倒れ込みました。

 そのとき、ビルの影から差し込んだ朝日が3人を優しく照らしました。

 やわらかな朝日に白く染まるかわっちを見ながら西川口はつぶやきました。

「はとっち。俺、全部なくしちゃったけど、いや、本当は最初から何も持ってなかったんだな。でも今は、お前と…かわっちがいる。俺、自分の力でやってみるよ」
「ふるっふー」朝の静寂の中、はとっちの声が優しく響きました。